残日録33 寛容

 牧衷は「寛容思想の成立と発展」(上田仮説出版)で「ルールとしての寛容」を論じている。精神論や道徳的な寛容ではなく、政治的な寛容。

 

  俗にくだけますと、テーブルマナーになるんです。「食事の席では宗教と政治の話をしない。」とい うことになるんです。政治と宗教の話になると血を見ることになる。だからお互いに譲れないことはフ タをすることにしたんです。お茶買いに譲れないことを認め合って、楽しく食事をするという大目的の ためにそこはフタをしちゃおうということが、テーブルマナーです。

  ロックの『寛容論』にテーブルマナーが書かれているわけじゃない。そこからの知恵なんです。そこ から発展して導かれたテーブルマナーが社会的文化基盤を作るんです。

  そうすると外交のほうでもそういうことが起こります。外交上の概念にAgree to Disagreeというへ んてこりんな概念があるんです。Agreeは同意する。Disagreeは同意しない。不同意の同意、なんだこ れは。 

  これが両方が引くに引けない主張をやってしまう。そうしたときに、この問題はお互いに引くに引け ないんだ。テーブルマナーと同じ。だったら、それにフタをしてお互いに共通にもっと利益になること をやろうじゃないかという外交政策上の知恵です。

 

 小泉総裁以前の自民党は寛容度が高かった。総務会が機能していたのである。

 ウィキペディアによると「自由民主党総務会は、自由民主党において党大会・両院議員総会に次ぐ党の意思決定機関であり、常設機関としては最高意思決定機関である。定員は25名議長は総務会長が務める。」「総務会で可決された法案には「党議拘束がかからない」とする旨の文言がある場合を除いて、党議拘束がかかる慣例になっている。また、党則では総務会が多数決が明示されているものの、党内に亀裂を残さないために事前にオブザーバーにあたる総裁や幹事長など党幹部の同意を得て全会一致を原則とすることが慣例化されている。小泉純一郎が総裁に就任してからは、総務会による事前審査なしでの政府案提出や多数決による採決が行われることもないわけではない。」

 では、議題に反対する総務がいる場合にはどうするのか。

 ここで、日本的な知恵の見せどころである。

 この「場合は反対意見を述べた上で退席し形式的に全会一致としていることである。これにより次の効果がある。まず、総務を通じて党内各グループの了承を得なければ、予算案や包餡を提出できない点がある。次に総務を通じて各グループが反対意見を表明できることから、グループ間の決定的な亀裂を防ぐ効果がある。また総裁が党内の信任を失った場合、総務会を通じて党議拘束等で影響力を行使できなくなるため、両院議員総会によらず早期の退陣を促す効果がある。」

 西川伸一「自民党総務会とはなにか」(フラタニティ№2 2016.5)では


  堀内光雄元総務会長によれば、「総務会は自民党議員ならば誰でも室内に入って会議を傍聴できるし 、誰もが番外発言と称する意見を述べることができる」。とはいえ、傍聴を希望する議員はあらかじめ 総務会長にその胸を申し出るのが慣例になっている。また「番外発言」をする場合も、総務会長に事前 通告しておくことが一般的である。それがなければ、総務会長は「番外発言」を無視する。

  堀内は全会一致の慣例について、「自民党総務会は、多様な意見を持つ議員の意見を集約する場であ り、政権を支える与党の最高意思決定機関であるから、異論が続出しても最後には全会一致の原則を守 ってきた。これは、国民政党としての自民党が約四十ねんにわたって維持してきた良識であり、議員内 閣制のわが国の政治が安定していた基盤である。」としている。

 

 日本的な組織としての寛容と言えるのかもしれない。もちろん、これはムラ内の意思決定であって、決定的な対立関係の歴史から生まれた<寛容>ではないのだが。

 

2018年10月24日