『国体論——菊と星条旗』白井聡 残日録210613
2018年に集英社新書として刊行された。明治維新前後から敗戦までを
① 「天皇の国民」=国民国家の建設期——「坂の上の雲」
② 「天皇なき国民」期=大正デモクラシー
③ 「国民の天皇」期=昭和維新運動⇒ファシズム
と分け、敗戦から現在までを、
① 「アメリカの日本」期=占領改革⇒高度成長
② 「アメリカなき日本」期=「ジャパン・アズ・ナンバーワン」⇒低成長と冷戦終結
③ 「日本のアメリカ」期=ポスト冷戦⇒失われた20~30(?)年
として、それぞれの時期の国体の性格を分析している。
敗戦後の占領政策によって、天皇を象徴とする国体が憲法として提示される。日本の中にいれば日本国憲法があり、天皇条項があり、憲法第9条があるのだが、サンフランシスコ講和条約とともに締結された日米安保条約によって、軍事的にアメリカの属国化する。その程度のことは当たり前のことである。著者は、天皇と憲法の上に、アメリカという存在を位置づける。この構図は見事だ。
現役の政治家のなかに、リアルにそのことを受け止めている人がどれだけいるのだろうか。アメリカの日本への注文をYES,YES,YESと受け止めているとしか思えない対米従属なのだ。1989年に始まった日米構造協議⇒日米包括経済会議⇒年次改革要望書⇒日米経済調和対話枠組みによるアメリカの要求に諾諾と従っていることに、内心、反発している政治家がどれだけいるのだろうか。
「TPO交渉の過程で明らかになったように、日米構造協議において発明された「非関税障壁」の概念は肥大化し、「グローバル企業が拡大展開する際に障害になりうるすべての事象」を意味するようになってきている。つまり、国民生活の安定や安全に寄与するための規制や制度すべてが、論理上、この「障壁」にカテゴライズされうるのである。この延長線上で懸念されているのは、たとえば、日本の国民皆保険制度に対する攻撃である。ウォールストリートの金融資本から見れば、普遍的な公的健康保険の存在は「参入障壁」であり、取り除かれるべきである、ということになる。」(P290)
「日本の場合、際立っているのは、こうした動向に対する批判の声があまりにも小さいことである。たとえば、大手新聞メディアにしても、TPPをアメリカあるいはグローバル企業による新たな収奪攻勢としてとらえるという論調は、ほとんど見られなかった。むしろ、アメリカ発の「非関税障壁への批判」を「日本社会の閉鎖性」といった曖昧な概念によって擁護する論調が九〇年代以降、急速に力を伸ばした。」(P290~291)
これを著者は「異様なる隷属」としている。
著者は「戦後日本の対米従属の問題は、天皇制の問題として、≪国体≫の概念を用いて分析しなければ解けない」と考えてきた。
二〇一六年八月八日の前の天皇(現上皇)のテレビを通して発せられた、強い「言葉の力」に衝撃を受けた。「ついにここまで踏み込まざるを得なかったか」という感慨と、この本はつながっている。
「敗戦国で「権威ある傀儡」の地位にとどまらざるを得なかった父(昭和天皇)の第二始まった象徴天皇制を、烈しいいのりによって再賦活した根性天皇は、時勢に適合しなくなったその根本構造を乗り越えるために何が必要なのかを国民に考えるよう呼び掛けた。」(P39)
「お言葉」にどう応えるのか、が問われている。それは象徴天皇制をどうこうするということではない。