『フライデー・ブラック』ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー著 読了 残日録210609
この本の帯にプレイディみかこが「シャープでダークでユーモラス。唸るほどポリティカル。/恐れ知らずのアナーキーな展開に笑いながらゾッとした」とあったので、この言葉に惹かれて読んだ。プレイディみかこはイギリスの多民族かつ底辺社会に暮らしていて、そこからいくつものエッセイ、ルポルタージュを書いている。小難しい本を読む合間の気分転換と思い手に取ったが、「シャープでダーク」「ゾッとした」は同感ではあるが、「ユーモラス。唸るほどポリティカル。/恐れ知らずのアナーキーな展開に笑いながら」には程遠い読後感であった。アメリカ社会の「アフリカ系アメリカ人」への暴力とそれへの抗議はTVで知ってはいるが、最初の「フィンケツスティーンS」は、黒人の少年少女五人の頭部をチェインソーで切断した白人に対して、白人が大半を占めた陪審員団は無罪判決を下した。その判決の理不尽さへの怒り、黒人は盗むと決めつけているかのような警備員の態度には耐えられるが、白人へのリンチに加担してしまう主人公は、警官に頭部を撃たれて死ぬ。こんな話からはじまる。
TVで見ればアメリカの警官は生死にかかわらない足などを撃ち逮捕するのではなく、すぐに射殺する。日本では許されないだろうと前々から気になっていた。これも差別と関係あるのだろうか。退役軍人の就職先なのだろうか。
アメリカ人が日本を安全な国という。そのなかでも平穏な田舎の小都市に住んでいると、リアルな皮膚感覚でこういった物語を受けとめられない。私の想像力が届かない、そんな感じがした。
表題作「フライデー・ブラック」は、アメリカ合衆国において、毎年11月の第4木曜日に行われる感謝祭の翌日を「ブラック・フライデー」とび、その日からクリスマスセールが開始されるそうだが、そのセールの混乱をブラックユーモアでえがいている。バーゲンセールの混乱で死体が山積みになるのだが、筒井康隆風だなあ、と思った。「アイスキングが伝授する「ジャケットの売り方」」「小売業界で生きる秘訣」とともに、皮肉がきいていて楽しめた。