春の雪誰かに電話したくなり/八十八

 新潮社の「波」の連載に「掌のうた」があり、歌人の三枝昂之が短歌を一首、俳人の小澤實が俳句を一句、紹介している。

 2020年3月号で小澤の選んだ句が「春の雪誰かに電話したくなり」である。八十八は桂米朝の俳号。師の正岡容(いるる)の共に弟子筋である小沢昭一、大西信之、永井啓夫(ひろお)、加藤武らとともに「東京ヤナギ句会」を結成。句会の宗匠は入船亭扇橋。ほかに永六輔、柳家小三治がいる。句会編「楽し句も、苦し句もあり、五・七・五」(岩波書店,2011)の「自薦 折々の句 三十」には採られていないが、エッセイで登場する。「たとえ苦し紛れに作った句でも、天に採ってもらうと、急に「ええ句かもしれん」と思えてくる」とある。

 近所の親子丼の「鳥喜多」の壁にこの句の色紙が飾られているので、活字になるまえから知っていた。米朝一門が堪能する「鳥新」の亭主から紹介されたという店。小沢昭一もよく足をはこんでいた。

 (正岡容が桂米朝を褒めるので、小沢と加藤がちょっと妬いた、とどこかで読んだことがあるのを思い出した。)

 小澤實;「うちの子でない子がいてる昼寝覚め」。ナツ、昼寝から覚めてみると、知らない子も眠っていた。まさに開けっ放しの長屋暮らしである。「うちの子でない子」に神秘的なにおいもある。大阪ことばが生きている。日常をよく観察して落語に生かしたという目も感じられる」

20200303

2021年01月09日