山口果林『安部公房とわたし』 残日録210519
2013年に出版された本。山口果林が妻子ある安部公房と親密な間柄だったことは、安部が生前だった頃のテレビを通しても感じられることだった。この本には出てこないが、安部の死後、しばらくたってのことだったが、山口果林が『徹子の部屋』に出て、安部について語ることがあった。
徹子さんは、尊敬する安部が死を迎えた時「あなたはその時、どこにいらっしたの」と聞いた。山口は「自宅のマンションにいました」と答えた。「そう、それで安部先生のご自宅にうかがったのね」と徹子さんと言ったと記憶している。
私は意地悪な質問だと思った。安部は山口に看取られたのに違いないと思っていたからだ。
この本で事の顛末を読み、そうではなく、二人の間に幸福な時間の末に残酷な時間が訪れたことを知った。山口はこの本を書くことで、安部との時間から解き放されたのだろう。
夫人の安部真知の死について深く触れていないところが、次の宿題になっているのではないだろうか。