飯田一史『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩選書)

快挙といってよい本が出版された。本が売れないと言っているのに、子どもの本だけは活況を呈している。

著者は三つの謎を「はじめに」で提示する。



謎①子ども向けの「本」市場だけが復活し、「雑誌」はボロボロ

謎②ヒット作の背景がわからない

謎③なぜか通史を書いた本がない



本書は第一章で「なぜ子どもの本の市場は今のような姿になったのか?」というマクロ的な環境要因を追い、第二章以降では「なぜ今の子どもの本市場の中で、このタイトルが売れているのか?」というミクロ的な個別事例を掘り下げていく。(p21)



謎①について、

『出版指標年報2018年版』は

教育熱心な親や祖父母が積極的に児童書を購入

大人の読者にも人気を呼ぶ児童書(特に絵本)が増

新進絵本作家の活躍、新規参入者の主に翻訳書によるユニークな企画が市場を活性化

幼児期の読み聞かせや小中学校の「朝の読書」の広がりが下支え

と指摘し、書店でも読み聞かせスペースなどを設け、規模を拡大する店舗が増えつつある、とまとめている。

との見解を紹介している。(p10)『年報』の指摘は妥当なところだろう。



謎②については「幼児~小学生編」として、「おしりたんてい」「ヨシタケシンスケ」「ルルとララ」「ほねほねザウルス」「かいけつゾロリ」などの紹介分析をしている。

なかでは「飛翔する児童文庫―—講談社青い鳥文庫と角川つばさ文庫」の項が読みごたえがあった。宗田理の「ぼくら」シリーズの著者による表現の「改稿」「加筆・修正」というブラッシュアップを支持する立場から、児童文庫の可能性を見出している。女の子に支持されてきた児童文庫が、男の子に読まれるラインナップを切り開いたのは編集者や著者の力によるものに違いない。



謎③については本書第一章でとりあげられている。バランスの取れたものになっていると思う。渦中の端にいるものとして、もっとざっくりとした「略史」を話すことはあるが、私の任にないことがらであるから書くことはないとおもうので、ぜひ、お読みいただけたらと思う。

20200815

2021年01月09日