霜月雑記 残日録2411012
今月のはじめに体調を崩し、日曜日に救急で病院に行くも回復せず、連休明けにまた通院したところ、血液、CTともに異常なく、朝、昼と食事をしないで診断待ちで3時過ぎまで病院にいたら、その晩に復調した。原因はわからないが。
木挽堂書店が発行している『劇評』の店主兼編集長の小林氏が「9月2日の深夜遅く、お風呂から出ようとした時、何か違和感を覚え、反射的に両手を目の前にあげて観た。すると……」ということでご入院されたので、9月号の発売が遅れに遅れて、9、10月号と10月に日を置かず発行された。
『演劇界』廃刊後の歌舞伎批評を途絶えさせないご尽力には感謝の一言しかない。
観劇の機会はめったになくて、こういう劇評を読んで観た気分になるわけではないのだが。
「歌舞伎 研究と批評67 日記からブログ、SNSまで」についても書き写しておきたいところもあったのだが、雑事・雑念に振り回され、この「残日録」からも置き忘れられている始末だ。
ブログの劇評を読むこともあって、「まるりのつぶやき――見た!聞いた!読んだ!」の十月歌舞伎座の「婦系図」の見物評。仁左衛門の主税と玉三郎のお蔦。
主税は酒井に逆らえず、お蔦に別れを告げるため夜の湯島天神にやってきます。ここで連れ立っての外出に喜ぶお蔦、妻になった喜び、初々しく務めている様子、どんなに主税を愛しているか。こんなにたっぷりかわいい妻のお蔦ちゃんの場面があるなんて聞いていない、と、この後の展開を思ってここから泣きそうです。
別れを告げられてからも、「別れろ切れろ」はキメ台詞のようなキマリで言うのではなく、あれこれと嘆く中に出てくる言葉。家の障子を張り替えようと紙を買ってきた風呂敷包みを落としたりと、動きのひとつひとつが胸に迫って悲しく、まあひどい話でした。
「泣きそうです」「まあひどい話でした」というところが「劇評」にはないところで、読んでいてたのしい。
渡辺保氏の「今月の芝居」では、
玉三郎のお蔦は、リアルに芝居を運んでお蔦という女の可愛らしさ、激しい気性、粋な気質を描いているが、同じ泉鏡花の作品でも「天守物語」や「日本橋」と違って、この人の特色が濃く出たわけではない。
とあり、「家の障子を張り替えようと紙を買ってきた風呂敷包みを落としたりと、動きのひとつひとつが胸に迫って悲しく」観る「まるり」氏の気持ちは、玉サマなら当然といったあたりなのか。
「仁左衛門の主税語る物語が、胸をうつ面白さだった。今月一番の出来である」のに対して、「一つは主税が第一場、第二場と筋が通ってその人生が出たのに対して、お蔦はここになってやっと出たせいもあって、二人の別れの切なさにバランスを欠いているせいもあるだろう」としている。
新派の名舞台がどうだったか、と思ってみたりする。
永井三郎の『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』がドラマ化されて、先日8話で最終回を迎えた。BLというよりLGBTの作品だった。原作もよかったが、シナリオがよくこなれていて、俳優たちも青春を駆け抜けた演技だった。
ただ一人、脱落した元教師柳田のうらぶれた姿がワンショット出てきて、柳田が主人公のスピンオフ『深譚回廊』につながりを予感させる。これは未読。
『未成年』というBLドラマが始まった。韓国発の大人気ドラマだそうで、「他人に無関心な優等生」と「問題児」が主人公。問題児の方は父親から虐待されているという設定。2000年代以降のBLの傾向でもあるけれど、日本でどう受け入れられ脚色されるのか、儒教の国韓国の父親像は、日本ではどう描かれるのか、興味がわく。
今年の秋ドラマは「3000万」「ライオンの隠れ家」「宇わたる教室」「ザ・トラベルナース」「謎解きレトリック」「モンスター」など、随分久しぶりにTVドラマを観ている。
活字を追う気力が衰えたせいかも知れない。
PWPの資料作成で久々にノーミソを絞ったせいかも知れない。
日本共産党で、党首公選制を著書で主張した松竹氏が除名された。このことについて「県委員会総会で誤りでなどが原因で、共産党のベテラン党員だった松竹伸幸氏(69)が党を除名された問題の影響が、さらに広がってきた。
とブログのニュースに出ていた。
リベラル派は「民主主義」や「民主的」という言葉を使うことがよくあるが、二段階革命論の日本共産党にとっては、「ブルジョア市民社会」に成立する「民主主義」であって、その次の段階をめざす日本共産党という前衛組織の内部においては、「ブルジョア民主主義」ではなく「民主集中制」が根幹をなすのではなかったか。
そうであるなら、「党内の論議」を党外で発表、または表現する行為は、当然、「反革命的行為」「反党的行為」となる。それが党員一人の「間違い」であったと当人も認めたらそれは教訓として残るのだろう。
当人が間違いと認めなければ、「予備調査」(査問)が原因で「適応障害」と診断されたりもするようである。「予備調査」に精神科医が関わっているのではないか、と思うが、門前の小僧には計り知れない。
末尾ながら、思いだした。
ジョセフ・フーシェというフランス革命期の政治家がいた。フーシェについての評価が日本では低いのではないか。どの分野、組織、集団にも多少なりとも情報を集めている人がいるのだから、そういう人を知っておいても良いだろうに、と思う。